ひとかた

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ひとかたとは、お竜が製作し、ネット上で配布されているサウンドノベル(アドベンチャーゲーム)。

NScripterを利用して作成されている、フリーゲームである。最初のバージョン(無音版)は2001年10月10日に公開され(現在は非公開)、現行のmp3版は2003年4月25日から公開されている。また、株式会社テンクロス[1]にて携帯アプリとしてもリメイク版が公開されている。

概要[編集]

ゲーム内容
本作は、ビジュアルノベルサウンドノベルに分類される、小説のように読み進めていくだけのゲームである。ストーリー進行に大きな影響を与える分岐・選択肢は、ほぼ存在しない。
基本的に、主人公である南護の一人称視点で進められていき、ヒロイン達との出会いと交流を通して、護が町に存在する妖怪である牛鬼の謎を解いていくために行動する…という内容である。
作品評価
緻密な設定とシナリオ、クオリティの高いBGM、エンディングの主題歌などにより、フリーノベルゲームのさきがけとして人気を博した。さらに、いくつかのフリーソフトの同人コンテストで受賞するなど、非常に高い評価を得ている。
しかし、「ループする世界観」を表現するにあたって、同じ文章を繰り返しプレイする必要性があるため、特に序盤~中盤までの展開には、苦言を呈するユーザーが少なくない。また、最新の同人ゲームと比較すると、システム面・演出・グラフィックなどにおいて、時代遅れの部分があるのも事実である。
だが、それを補って余りあるシナリオの完成度により、未だその人気は根強い。

制作バージョン[編集]

18禁バージョン
2001年に配布開始された、最初のバージョン。サウンドノベル制作ソフト「DNML」で制作されている。音楽などのない無音であり、現在は非公開とされている。18禁エロゲーだったが、その後、ベクターに登録するために、直接的な性描写を削るなど改定がなされたため、現在は18禁版は配布されていない。
mp3バージョン
2003年に公開された、18禁表現を削除したバージョン。ユーザーの不満点を解消するなど、シナリオ面・システム面の再構築がなされている。その後、2006年にベクター登録のために、さらに各種表現を緩和する修正が加えられた。しかし、作中には多くの際どい表現やギャグがちりばめられており、作品にはエロゲー独特の雰囲気が残されている。また初期のバージョンでは作者によるコメントを見ることができた。
MIDIバージョン
2003年に、お竜のシナリオソースを元にして、柚葉智が製作した亜流バージョン。サウンドノベル制作ソフトは、NScripterに変更されている。MP3版とは音楽もグラフィックもまったく異なり、CGと音楽にフリー素材を使用している。BGMがMIDIとなっているのが大きな特徴。酷評されている寒いギャグは、そのままとなっている。

ストーリー[編集]

舞台は、東京近郊にある田舎町、打追。この地では、かつて土着の神として崇められていた異形の怪物「牛鬼」が存在し、近隣の村人を操っては、争いや天変地異などの祟りを起こしていた。しかし、人々を苦しめ続けていた牛鬼は、「白髪の翁」と呼ばれる陰陽士によって封じられ、以降12年ごとに人々による「牛除け祭」を行うことで、牛鬼の復活を防いでいるという。

伝説の陰陽士の血を引いている主人公の「南 護」は、遠い親戚である「南 依絵」から、復活しつつある「牛鬼」を退治してほしい…という依頼を受ける。今年は、牛鬼がよみがえる年である12年目。封印の儀式である「牛除け祭」は効力を失いつつあり、牛鬼の復活をもくろむ人間もいるという。護の役目は、協力者たちの協力を仰ぎながら、牛鬼を倒すための情報を集め、牛鬼とその復活に手を貸す者たちを倒すことにある。

出会った当初は、なぜか敵意をもたれていたヒロイン達 「黒部 蘭」「南 智恵」「菅野 美咲」 らとも、何度か交流していくうちに次第に打ち解けていき、信頼を勝ち得ていく。やがて、護は不可解な運命に巻き込まれ、何度も敵に殺害されることになるが、その度に「腕輪」の能力により時間を何度も遡ることで、牛鬼に対抗する手段を得ようとする。

登場人物[編集]

主人公 ・ ヒロイン[編集]

南 護
かつて牛鬼を倒した「白髪の翁」の血を引いていると言われ、妖怪退治の力を持つ高校生の少年。親族たちの能力は失われており、一族のうち現在ただ一人だけ力を持っている。青緑に輝く腕輪と、青銅製の「破魔の短剣」を持っている。依絵に依頼されて、打追に伝わる妖怪「牛鬼」を倒すことになる。
護に与えられた使命は3つ。牛鬼の復活を手助けしている人間を見つけて、阻止すること。牛鬼を倒すための武器を見つけること。その武器を使って、牛鬼を倒すこと。
正義感が強く、弱気を助け強きをくじく、ステレオタイプの主人公であるが、高校生らしいスケベ心も持ち合わせている。旧版ではかなり寒いおやじギャグを連発するが、改変版ではある程度修正されている。
黒部 蘭
黒部荘の娘で、高校1年生の少女。序盤におけるメイン・ヒロイン。ぽっちゃりかわいい系で、丸っぽい顔をしている。眉毛で切りそろえられた前髪に、クリップで留めた後ろ髪をまっすぐ垂らしている。過去に親しかった友達を、牛鬼の生んだ小鬼に殺されたことから、心に傷を抱えており、躁鬱状態にある。事件の真相をしるべく毎晩、牛鬼について独自に調査している。
護が牛鬼を信じたことから、護に恋心とも言える好意を持つようになり、積極的に親しく接してくるようになる。護のことは、「お兄ちゃん」「先輩」と呼んでいる。護を朝起こすときは、布団をゴロンと回転させて起こす。民宿育ちだけあって、料理を並べるのが非常に早い。
南 智恵
護のクラスメイトだが、3年ほど留年しているため20歳である。資料館の館長代理で、依絵の親戚筋にあたる。留年の理由は、一度もテストを受けていなかったから。お嬢様風の容貌をしており、背は低く痩せていて、胸もない。つり目で冷たい感じがするが、左右に大きなおだんごのある髪型で、リボンで留めている。
初対面の時には、かなり冷たい態度で接していたが、クラスメイトになって以降は謎を秘めた接し方をしてくるようになる。護のことを「まもちゃん」とあだ名で呼ぶ。打追町の運命について達観しているのか、人を小馬鹿にしたような皮肉のきいた態度をとることが多い。時おり護の前に現れては、予言めいた助言をしては去っていく。
菅野 美咲
護のクラスメイト。終盤におけるメイン・ヒロイン。シャギーの入った襟元ぐらいの長めのショートヘアーで、そこそこの肉付きをしている。容姿は、佐野香織に酷似しているらしい。公民館の職員である父親とは、性格は似ているものの、仲が険悪である。
護に対して感情的に接することが多く、護曰く「プリプリ女」。護のことは、「変態」と呼称する。小鬼に襲われている所から彼女を助けたことから、護のケンカ友達となった。しかし作品終盤では、互いに恋心を抱くようになり、そのために護は苦しむことになる。
南 依絵
高校教師で、護のクラスの担任。護とは、遠い親戚であり顔見知りではあるが、長らく親しくしていなかった。打追では名の知れた名家であり、広い屋敷に住んでいる。ゴキブリが苦手。20代後半でメガネをしているが、見た目に高校生くらいにも見える外見である。何もない所でも転んでしまう、危なっかしさを持つ。日下部とは幼馴染であり、恋人関係であるらしい。
護には、何か重大な秘密を隠しており、そのためか護と一緒に暮らすことを避け、黒部荘に泊まれるよう手配している。

その他の登場人物[編集]

日下部 圭治
打追高校の日本史の教師。依絵の恋人らしく、高校の頃からの付き合い。インテリ風で偉そうな態度だが、護とは雰囲気が似ているらしく、昔の日下部を知っている者たちからは、それを指摘される。
高校の頃は女遊びが激しかったが、幼馴染の佐野香織と恋人になってからは、生活態度が改まる。しかし、佐野香織が行方不明になったことから、そのショックからか性格が一変する。その後、依絵と付き合うものの、東京の大学に進学し、修士号を習得して打追に戻ってくる。その研究課題は、「牛鬼」に関するものである。
フルネームは過去に公式サイトにて行われた人気投票で明らかにされた。
菅野 彰
公民館の図書室にいる、50前の男性職員。美咲とは親子だが、仲は悪い。顔の左半分には火傷痕があり、ピンクと青の混じったような肌をしている。人間嫌いで、特に外からの人間には冷たく接する。しかし、真摯な態度を示す者には、心を開いて話を聞いてくれる。昔、打追高校の教師をしており、高校時代の日下部・依絵・香織の担任をしたいた。
フルネームは過去に公式サイトにて行われた人気投票で明らかにされた。
黒部 妙子
黒部荘では「おかん」と呼ばれている、女将さん。サザエさんを横に二倍にしたような外見らしい。ちなみに旦那の浩貴は、「おとん」と呼ばれている。落ちこんで精神的に不安定な蘭のことを心配しており、蘭につきあってくれる主人公に感謝している。
フルネームは過去に公式サイトにて行われた人気投票で明らかにされた。
橋本 昌子
黒部蘭の親友で、牛鬼の手下と思われる妖怪に、一年ほど前に殺された少女。殺害場所は、打追インターの下。
佐野 香織
日下部の高校時代の恋人。日下部と依絵とは、幼馴染み。高校生の頃、突然に行方不明となった。美咲と容姿が似ているらしいが、性格は異なる。

作品設定[編集]

腕輪
青緑の色をしている、白髪の翁が残したとされる腕輪。牛鬼を倒す際に、短剣とともに必要になるものであり、死の瞬間に願うことで発動し、時間を繰り返し旅することができる。その際に、前回の世界での「記憶」は引き継がれる。
破魔の短剣
ちょっとした妖怪であれば、短剣単体でも倒すことができる威力を持つ。腕輪と合わせて、牛鬼を倒すために必要な唯一の術とされる。
破魔弓
白髪の翁の作り出した「式神」が使う武器で、人間には扱うことができない。破魔矢を打ちだすことで、牛鬼を倒すことができるとされる。肘から指先くらいの長さの短弓だが、式神が手にとることで、ひとひろぐらいの長さまで伸びる。黄色っぽい色をしていて渦巻きのような紋様があり、紙のように軽くて弾力のある神木でできている。
白髪の翁
かつて牛鬼を退治して封印した、伝説の陰陽士。ある武器を使い、それを打追に残したとされる。南家は、白髪の翁の子孫であるとされているが、分家化が進むにつれて能力者としての血が廃れていき、牛鬼を倒すことのできる能力を持っているのは、護だけとなっている。
式神
白髪の翁が、牛鬼を倒す目的で作りだした人形。歴史資料では、弓矢を引いている姿が描かれている。本作のタイトル「ひとかた」は、この人形(ひとかた)を意味している。
牛鬼
かつて陰陽士「白髪の翁」の手によって封印され、打追の地に眠っている凶悪な妖怪。蜘蛛のような胴体に、牛の頭をもっており、体長30メートル。二ツ角岩は、牛鬼の角であると言われている。もともとは、この地に君臨していた土着神のような存在であり、その土地に後から人が移り住んできたと考えられている。
12年ごとに弱まる封印の周期を狙って、打追の人々の「人心」を操ることで、人災・災害を引き起こしている。さらに、年々と力を増しており、最初は「一人の人心」を惑わして狂気に駆り立てる程度であったが、次第に街を侵食していくことで封印を破っていき、ついには「台風の軌道」をも操るほどの力を得ている。
小鬼
牛鬼の分身で、ホオズキみたいな赤く輝く瞳、黄色い牙、異様に長い四肢をもつ猿のような容姿をしている。「打追インターの下」「郷土資料館」「公民館」の近辺の三箇所には、牛鬼が生んだ小鬼が現れて少女を襲うらしい。動きは非常に素早く、屋根の上を移動するが、護のもつ短剣での撃退が可能である。

舞台[編集]

打追
長さ約4キロ、幅約2キロ、人口8000人の県内で最も小さい町。主要産業は、漁業と観光業。打追駅前を除いて、平地はほとんどない。電車の線路を境にして、西部の山間部と東部の湾部に分かれている。北部は山岳高地、南部は海岸地帯となっている。駅前には住宅地がある。
かつて、「白髪の翁」といわれる陰陽士によって、恐るべき妖怪「牛鬼」が封じられている村。周辺の人の出入りが多くなり儀式への信仰が薄れたことから、牛鬼の封印が破られかけている。牛追がなまって、「打追」という名前になった。
ちなみに、本作の舞台となっているのは、神奈川県真鶴町である。作中における打追駅・打追大橋・黒部荘・郷土資料館・二ツ角岩…なども実在している。
二ツ角岩
打追の海岸線から見える、海面に浮かぶ奇妙な形の岩。高さ3メートル、間隔5メートルで、二本の岩の間には、「白いしめ縄」がかけられている。この岩の下には、牛鬼が封印されていると言われている。
黒部荘
打追にて、護が泊まることになる仮宿。海岸沿いにあり、木造二階建ての民宿で、そう大きくはない。女将さんの好意により、護の貸切りであった。
南家
古くからの名家として知られており、かなり広い屋敷である。打追町の中心に位置しているため、主人公が行動する際のスタート地点となっている。
牛鎮神社 (ぎゅうちんじんじゃ)
打追駅から北に位置する、徒歩20分ほどの距離にある小さな神社。隣接する海岸には二ツ角岩がある。979年に牛鬼を退治した翁から、儀式を行うよう言われた村人たちが建てたものとされ、県指定重要文化財である。
郷土資料館
外観は、普通の屋敷を改造して作られており、資料館内部の展示スペースは広さ10メートル四方しかない。特別展示室は関係者以外は立ち入り禁止となっている。
公民館
役場の並びに建っている粗末な建物。会議のできる和室や、図書室などがある。
打追銀座
打追駅から南側にある、非常に寂れた感じのする商店街。喫茶店、おもちゃ屋などがある。
打追駅
売店もあり、釣具なども売っている。案内板から、町のマップを見ることができる。
打追高校
駅からの高台にある、ごく普通の公立高校。黒部荘からは徒歩15分。

その他[編集]

作者は2003年4月25日版のコメントにおいて『ひとかたでやりたかったのは、マルチエンディングのもつ偽善性、ウソっぽさ、子どもっぽさみたいなものに対する挑戦』だと述べ、本作を製作する上で影響を受けた二作品のゲームについて言及している。[2]

まず分岐・選択肢の撤廃という一本道に限定するコンセプトは、Leaf)へのアンチテーゼであり『私なりに「痕」という作品に対して感じた違和感を解消するシステムを検討してみたもの』と述べている。

はいわゆるマルチエンディングタイプのノベルゲームであり、バッドエンドを見たあとで再プレイすると、そのバッドエンドを回避する選択肢が出現する、というものであった。これは、一度バッドエンドを経験しているためプレイヤーはそれを回避する方法を知っている、ということを表現するための手法である。 これは今日では有り触れたギミックであるが、『そうなると「プレイヤー」と「キャラクター」の知識に差が出る』と作者は指摘する。

そしてもう一つ影響を受けた作品として、と同時期に製作されたアドベンチャーゲームのこの世の果てで恋を唄う少女YU-NOエルフ)を挙げ、『同時期の「YU-NO」という作品も素晴らしかったですが、あれはあれでなぜキャラクターは他の次元の記憶を残していないんだろう…と。すべてを表現するには限界がありましょうが、そのへんにつっこんでみたかったのです』と述べている。

脚注[編集]

  1. 製品情報 ひとかた テンクロス
  2. 当時は本編クリア後タイトルに『地図』という項目が加わり、そこで作者のコメントを見ることができた。

外部リンク[編集]

ウィキペディア無し small.png ウィキペディアにも「ひとかた」の項目が執筆されていましたが、削除されてしまいました