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ツクリタケ
Agaricus bisporus
分類
界: 菌界 Fungi
門: 担子菌門 Basidiomycota
綱: 菌じん綱 Hymenomycetes
目: ハラタケ目 Agaricales
科: ハラタケ科 Agaricaceae
属: ハラタケ属 Agaricus
種: ツクリタケ bisporus
学名
Agaricus bisporus

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和名
ツクリタケ
英名
White mushroom

ツクリタケは、ヨーロッパから導入された食用栽培種である担子菌門ハラタケ科Agaricus bisporus (J. Lange) Imbach common mushroom, White mushroom champignon de Paris)のことである。マッシュルームmushroom)とも呼ばれるが、これは本来英語で「きのこ」一般を指す語である。

A. bisporusハラタケA. campestris L. : Fr.を栽培下で選抜することによって成立したと考えられる。ヨーロッパ古代ギリシア古代ローマの時代から厩肥などに自然発生していたものを利用していたものが、17世紀頃にフランスなどで人工栽培が行われるようになったと言われている。収穫期である直径2〜4cm程度の幼菌のときは、野生のハラタケよりも分厚い肉質の半球形の傘をもつ。表面は品種によって白色や褐色などを呈するが、傷つくと赤褐色の変色が生じる。成熟すると傘は平らに開き、大きなものでは20cmにも達する。このとき、柄の長さも15cmに達する。ひだは幼菌のときは薄膜で覆われており、日本ではこの膜が破れる前の、欧米では破れた直後程度の熟度で収穫する。成熟し、胞子をつけたひだは、淡紅色から紫褐色を呈する。

生態[編集]

元来は発酵させた厩肥に菌を植え付けて屋内で栽培する腐生菌だが、今日では大規模栽培に際してはサトウキビ搾りかすなどに米ぬか化学肥料などを加えて発酵させた人工堆肥などが使われることが多い。この人工堆肥をマッシュルームコンポストなどとも言う。

この堆厩肥中に植えられた菌は、まず植物残渣表面に繁殖した放線菌などの微生物を分解摂取し、次にリグニン、最後にセルロースを分解吸収していく。発酵を終了した堆厩肥には微生物の栄養源となる溶存低分子化合物はほとんど残存しておらず、ツクリタケは成長に必要とする窒素化合物を、微生物の捕食と発酵の過程でリグニン腐植複合体と結合した窒素化合物の分解によって得ている。また、ビタミンB群チアミンビオチンを成長に必要とする。発酵前の溶存窒素化合物などの容易に利用できる物質に富んだ環境では、ツクリタケの菌糸は繁殖速度の大きな細菌などに資源をめぐる競争で太刀打ちできないが、こうした栄養分が枯渇した発酵終了後の堆厩肥では、休眠状態になった細菌を捕食する能力や、難分解性の高分子化合物、特に他の多くの微生物にとって分解できないリグニンを分解する能力によって、優勢に立つことができる。ツクリタケの栽培とは、こうした堆厩肥の発酵過程における微生物群集遷移現象を利用した技術体系であると言える。

野生種のハラタケは担子器に4つの担子胞子をつけるが、栽培種のツクリタケは2つしかつけないことが多い。これが種小名の bisporus (2つの胞子)の由来である。担子器の内部では二次菌糸内の性の異なるが融合してから減数分裂を起こして4つの核が生じるが、ほとんどの場合、性の異なる核がペアになって新しくできた2つの胞子の中に移行する。そのため、この2核の胞子が発芽すると、一次菌糸を経ずに直接二次菌糸が発生する。これより頻度は低いものの、同じ性の核がペアになって胞子内部に移行する場合、2核の胞子1個と同時に単核の胞子2個、合計3個の胞子が形成される場合、単核の胞子が4つ形成される場合もある。同性の核がペアになった2核の胞子や単核の胞子からは一次菌糸が発生するので、これが品種改良時、交配に用いられる。しかし人工培養下で胞子の発芽は非常に低頻度であることが知られているので、酪酸などの有機酸処理や成長菌糸の刺激によって胞子の発芽を促す方法が開発された。また、ツクリタケの二次菌糸はクランプコネクションを作らないため、一次菌糸との識別が困難である。そのため最近は、単核胞子を発芽させて一次菌糸を探すよりも、二次菌糸のプロトプラスト化によって単核の一次菌糸をつくり出し、これによって交配を行うことが多くなっている。

品種[編集]

A. bisporus はホワイト種、オフホワイト種、クリーム種、ブラウン種の4つの品種群に大別される。また厳密には別種ではあるが、ヨーロッパで主に栽培される A. bitorquis (Quèlet) Saccardo もツクリタケとして扱われるため、ここで解説する。

ホワイト種[編集]

なめらかで純白の外観が美しいため、生鮮流通品として好まれる。また、低温でも子実体が発生するという栽培上の利点もある。このため世界で最も多く栽培されている品種群であるが、柄が徒長しやすいことと汚れや傷による変色が目立ちやすい点が欠点となる。

オフホワイト種[編集]

色がやや灰色がかった白色であるほかは、ホワイト種に性質が近い品種群。ホワイト種と同様、生鮮流通品として好まれる。

クリーム種[編集]

淡褐色で中型の子実体を生じる。栽培環境の湿度が低いと、表面が鱗状になったり甚だしい場合はひび割れができる。加工用として好まれる。

ブラウン種[編集]

褐色で大型の子実体を生じ、収穫量も多い。味は濃く香気にも富んでいる。肉質が緻密で加工による収縮が少ないので、加工用として好まれるが、保存性に富み、汚れや傷による変色も目立たないので、生鮮流通品としても好まれている。

Agaricus bitorquis[編集]

傘の中央部はややくぼみ、形は歪みがちである。A. bisporus より5°C高い温度で子実体を生じる。ウイルス病に対して抵抗性があり、夏季及び亜熱帯地方での栽培に適するが、栽培環境が高温多湿となり作業が重労働になる点が嫌われる。ヨーロッパでは栽培されるが、アメリカではあまり栽培されない。

栽培[編集]

歴史[編集]

欧米[編集]

ツクリタケの人工栽培のきっかけを作ったのは、メロン栽培だったといわれている。16世紀にフランスやイギリスのような寒冷多雨の西ヨーロッパ諸国に、南欧からメロンが導入された。高温乾燥を好む西アジア起原のメロンを栽培するために、これらの国々では厩肥の発酵熱を熱源とする温床が用いられた。17世紀半ば、あるいはもう少し早い時期に、パリ郊外のメロン栽培に用いられた廃温床の熱源厩肥にハラタケ類が発生しているのが注目され、食用に採集されるようになった。さらに、きのこの発生する廃温床に家畜の糞や敷き藁を被せて、さらなる子実体の発生を促すようになったのが、人工栽培の最初の試みである。

次に試みられたのが、優良な菌の選抜と移植であった。に新しい厩肥を盛り上げて畝を作り、菌糸の蔓延した前回の栽培時の厩肥をそこに移植して土を被せる畝床法(ridge bed system)が行われるようになったのである。

やがて18世紀になると、この畝床の上に小屋掛けしたり、温室内に畝床を作ったりするようになって、屋内栽培に移行していったが、屋外の畝床法もイギリスなどでは今日まで残存している。フランスではパリ郊外の鍾乳洞の中に畝床を作ることで大規模栽培が行われるようになった。堆厩肥の発酵技術の基本形も確立し、保存可能なように菌糸の蔓延した堆肥を乾燥させた種菌(片状種菌)も開発された。A. bisporus が選抜によって成立したのもこのころである。このためツクリタケはフランス語でシャンピニオン・ド・パリChampignon de Paris(パリきのこ)と呼ばれている。

19世紀初頭になると、フランスで開発された栽培技術がドイツオランダ、イギリスといった西ヨーロッパ諸国に、さらには移民によってアメリカ合衆国にも伝播し、さらにイギリスでは取扱いに便利なレンガ状種菌が開発された。これは堆厩肥と土を混合し、ここにツクリタケの菌糸を繁殖させたものである。19世紀中ごろになると、土を被せた堆厩肥を空調を施した栽培舎内で立体的に設置した棚に載せる棚式(shelf bed system)が開発され、アメリカやフランスで採用された。この棚式はアメリカで著しく発展し、19世紀末にはフランスは世界最大の生産国から転落し、アメリカがとって替わることになった。それまで個別の栽培者が秘密主義の中で試行錯誤を繰り返していたのが、このころから、公開された科学研究の中で栽培技術の発展が図られるようになってきた。この潮流の中から菌糸の無菌純粋培養による種菌が誕生し、雑菌による病害虫の危険の低い安定した栽培が可能になった。

20世紀半ばになると、アメリカの棚式栽培は棚に設置する栽培床を箱の内部に造床して移動の機械化に適した形に改良した箱式(Tray system)栽培法に発展して、これが連鎖的に栽培工程全般の機械化を進行させた。こうして機械化し工業的発展を遂げた箱式ツクリタケ栽培法は、オランダを除くヨーロッパとオーストラリアで普及した。一方オランダは、棚式を維持したまま機械化した大量栽培法を発展させることとなった。こうした大資本を必要とする機械化した工業的栽培法が発展した一方、それほどの資本力を必要としない小規模栽培の効率化を図ったのが、デンマーク1959年に箱式の箱を袋に変えた形で誕生した袋式(bag system)の栽培法で、1970年代にヨーロッパ全体に普及すると共に、イタリアでさらなる効率的な改良が施された。

この時代のもう一つの特徴として、モータリゼーションの進展によって馬厩肥の産量の減少が起こった。この状況を受けて、様々な植物性廃棄物を原材料としたツクリタケ栽培用堆肥の研究が進み、発酵の原理やツクリタケが必要とする堆肥環境の微生物生態学的解明が進んだ。これと共に、20世紀末から急速に進歩したバイオテクノロジーを背景にして、21世紀の今日、ツクリタケ栽培は先端産業の色合いを強く持った発展を遂げつつある。その一方で、伝統的な馬厩肥による堆厩肥を使用してのツクリタケにこだわる生産者や高級レストランなどの消費者も見られている。

アジア[編集]

欧米で発展を遂げたツクリタケ栽培は、明治の中ごろに日本にも導入され、新宿御苑で試験栽培が行われたが、この時は普及を見なかった。日本における栽培の普及は、様々なきのこの栽培の先鞭をつけ、「きのこ栽培の父」とも呼ばれた森本彦三郎による。森本はアメリカやヨーロッパで研修を受け、身につけた技術によって1922年、栽培成功に漕ぎ着けた。さらに純粋培養による種菌製造を開始し、「西洋マツタケ」の商品名による種菌販売とともに、栽培の技術指導を行った。

戦前の日本では、陸軍軍馬が馬厩肥の大供給源であったこともあり、陸軍の連隊所在地に隣接して、主要な栽培場が起業された。たとえば、近衛騎兵連隊、第一騎兵連隊、第十三~第十六騎兵連隊などを擁する千葉県習志野には新井農場、村山農園、富永農場が、新潟県高田の歩兵連隊には高田洋菌栽培場が、馬厩肥の供給を依存して経営を行い、主としてホテルや高級レストラン向けに、日本全体で約280tの生産があったと言われている。

戦後の日本では、陸軍の解体により栽培用厩肥の供給源は農家の耕作馬競馬場競走馬に移行した。また同時に、馬厩肥に依存しない人工の堆肥を用いた栽培も普及していった。この時期のツクリタケ栽培場は、アメリカの缶詰市場を主な対象として、1974年には生産量15,300tに達するまでの大発展を遂げ、この頃には減反対策の一環に稲作農家が納屋を改造してツクリタケ栽培をする姿までもが見られたが、日本のツクリタケ生産技術が戦後移転された台湾大韓民国で、1970年代中頃になって欧米向け輸出用生産が盛んになると、日本での栽培は衰退した。今日では、国内生鮮市場向け栽培にシフトして、2,000t代後半程度の生産が行われている。これは生シイタケの国内生産の約30分の1の量に過ぎず、日本人の食生活に占めるツクリタケの位置を物語っている。さらに現在では、台湾と韓国の欧米向けの生産も、労働力と厩肥製造コストの安い中国にその座を追われている。

現在、国内のツクリタケの生産地として知られる場所は、栽培用厩肥の安定的な確保という観点から、競馬場や競走馬のトレーニングセンターが近隣に所在している所が多い。だが、昨今の公営競技全般の低迷による地方競馬の競馬場の廃止で栽培用厩肥を安定的に入手するルートが失われ、これに変わる乗馬施設などからの入手、人工堆肥の使用では調達・輸送などの各種コストなどの面で見合わなくなり、これによりツクリタケの生産を取りやめた農家も出るようになった。

日本の製造業者[編集]
  • 有限会社三蔵農林ミツクラ)(岡山県瀬戸内市牛窓)
    • 年間1200トンという国内最大の出荷量を誇る専門業者で、西日本ではフレッシュツクリタケのシェアの8割、全国ではシェア4割を占める。表面が多孔質のツクリタケは洗うと鮮度が著しく落ちることから、全ての商品を洗わず(無洗ツクリタケ)に出荷している。URLはhttp://mitukura-nourin.com/
  • パールマッシュ有限会社佐賀県鳥栖市
    • 一般のツクリタケの他、キングシャンピ(キングパールシャンピニオン)という、超大型のもののも手がける専門業者

手順[編集]

堆厩肥材料の準備[編集]

厩肥を使う場合、最も優れた材料は馬厩肥である。厩舎の糞尿の混ざった敷き藁単独、あるいは藁を追加して糞尿と藁の配分費を調節してやるだけで、栽培用厩肥の材料としては十分である。厩肥や厩肥の場合は、それ自体の栄養素の量が馬厩肥よりも少ないため、窒素リン酸カルシウムなどを補強してやると共に、糞の質が緻密で水っぽいので、藁の量を増やしてやる必要がある。

藁などの植物質を使って合成堆肥を作る場合、主原料に対して尿素硫酸アンモニウム鶏糞などの有機、無機の窒素肥料を主体に、カルシウム源としての炭酸カルシウム石膏リン酸微量元素を補強するための専用添加剤などを加えてやる。

一次発酵[編集]

造床[編集]

二次発酵[編集]

接種[編集]

育成[編集]

覆土[編集]

子実体原基の誘導[編集]

収穫[編集]

廃床[編集]

調理[編集]

そのまま、あるいは水煮にして缶詰として流通している。香りは薄いが味がよく、西洋料理によく用いられる。バター炒めにしたり、スパゲッティミートソースグラタンオムレツなどにされる。きのことしては珍しく、加熱せずに薄切りにしてサラダとして生食することもある。

近縁なきのこ[編集]

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